「介護職のための“認知症”介護の心得」を書く前に、「介護職とはどんな職業なのか?」について考えてみたいと思います。
前回、職業として「介護職」を選んだだけの「“似非”介護士」、という表現をしました。
ちょっとキツい表現ですが、介護職である以前に介護家族でもある私の目には「“似非”介護士」が介護業界の質を下げていると映るし、そんな人たちに介護を受けなければならない利用者が可哀相に思えるからです。
「“似非”介護士」とは、介護について深く考えることなしに、就労先として介護業界を選んだだけ、資格だけが一人前という介護職の人たちのことです。専門学校を卒業し、そのまま介護業界に飛び込んだ若者や求人広告に載っている訪問ヘルパーの時給に魅力を感じ、講習会を受けて2級ヘルパーを取得した人に多いようです。
「“似非”介護士」の問題点の一つに「自分は専門職」だと思い込んでいることが上げられます。
しかし、本当に「介護職は専門職」なのでしょうか?
「大学や“専門”学校で“専門”教育を受け、資格を取得した」のだから、“専門職”だという意識があるのでしょう。
しかし、「介護で収入を得る“プロ”(職業人)」として必要な介護技術と(中途半端な)介護知識を身につけただけなのです。
そもそも、介護そのものは専門職と呼ぶような難しいものではありません。プロである介護職が学習してきたのは主に(身体)介護“技術”です。
しかし、無資格・未経験であっても就労することに問題はありません。事実、一部の介護施設では無資格・未経験でも採用しています。(就労後、資格取得を勧めることは多いですね)
一方、介護家族(の多く)は、専門教育も受けていませんし、誰にも教わらずに体験の中から自己流の介護術を作り上げ、実践してきた人たちです。強いて言えば、介護で収入を得ることのないアマチュアですが、介護者であることに違いはありません。
専門教育を受けたこともない人(家族など)ですら介護はできるのです。それどころか、一切の資格を持っていなくても、学校を卒業したばかりの若い「介護福祉士」よりも上手な介護ができる方は大勢います。介護はテクニックだけではないのです。“介護”以外の職場を知らない若い「介護福祉士」より、人生経験や社会経験を重ねた人の方が、上手な介護ができることは多いのです。
つまり、資格を持っているから専門職などと考えるのは驕り以外の何者でもないと言うことなんです。
では、なぜ介護職には資格が求められるのでしょう?
答えは簡単です。「介護で報酬を得る」プロなのですから、「知らない」や「わからない」は通りません。まして、事故や事件を起こすことは絶対に許されないからです。誤った介護技術で怪我をさせたり、心ない言動でお客様(被介護者や介護家族)に不快な思いをさせるようでは、プロとして失格なのです。家族なら許されるような小さな失敗も、介護で報酬を得るプロには許されないのです。
そのようなトラブルを防ぐために、最低限、最小限の知識や技術を得た証として資格が求められているだけなのです。
それと、もう一点、介護保険制度の度重なる改訂で、介護福祉士の在籍比率が高い施設には、介護報酬の加算があるため、経営面から、実際の介護能力に関わらず有資格者が優遇される傾向があることも誤解を招く要因の一つと言えるでしょう。
「“似非”介護士」の二つ目の問題点は「介護業界しか知らない」井の中の蛙だという点。
以前にも書いたことなのですが、mixiなどを見ていると、「“似非”介護士」ほど、仕事や業界、そして利用者や介護家族への愚痴が多いですね。
たしかに介護職は肉体的にもキツく、拘束時間も長い、その割に収入も少ない職業ですが、数多くの職業の中からそれを選んだのは自分自身です。
介護家族の場合、自ら望んでなったわけでもないのに、1日24時間、1年365日、「介護から逃げる」ことはできません。
しかし、自らの意志で就いた「職業としての介護」なら、いくらでも逃げ道はあります。自分の勤務時間さえ終われば、介護のことを考える必要もありませんし、休日だってあるのです。
さらに言えば、介護そのものが嫌になったのなら、転職や退職という選択肢もあるのです。誰にも遠慮することはありません。さっさと介護の現場から退場すればいいだけのこと。
介護業界だけが低賃金な訳ではありません。どんな業界でも職種・職能により賃金格差はあるわけで、高収入を得られるのは、特殊な技能や才能を発揮するか、危険な作業をするか、人の嫌がる仕事をするかだけだということすら理解できない。
所詮は末端の作業者に過ぎない、誰にでもできる介護の仕事で、高給を取れるはずがないことも理解できない愚か者だということを自ら宣言していることに気づいていないんですよね。
それから、ベテランか新人か、資格があるかないか、に関わらず、「プロ」であることに違いはありません。「プロ」である以上、仕事はキチンと全うしなければならない義務があるのです。
職場や上司についての愚痴ならまだ理解できます。しかし、利用者や介護家族の愚痴をこぼすのは誉められません。
何度も書きますが、利用者や介護家族は自ら望んでその立場になったわけではありません。それだけに葛藤は大きく、介護職に対して間違った要求をしてくることも多いでしょう。
それを、ただ愚痴り馬鹿にするだけでは、「専門家」と名乗るのは恥ずかしい。ホンモノの「専門家」なら、正しい情報を提供し、快適に過ごせるようアドバイスしてあげられるはずです。
自らの意志で選んだ職業に誇りを持つプロならば、愚痴や言い訳などしません。少なくとも、被介護者や介護家族の目に触れるところで、仕事や職場への愚痴や不満を言うことはないでしょう。
低レベルな愚痴を聞かされる利用者や介護家族の気持ちを考えたことがありますか?とても悲しい、悔しい気持ちになるのです。嫌々やっている仕事では「親身な優しい介護」などで期待できませんから・・・。
誰も喜んで介護サービスを利用しているのではないのです。世話にならずに済むのなら、利用したくないのが介護サービスなのです。だからこそ、嫌々やっているような人の世話にはなりたくないのです。
いくら人材不足の介護業界だからといって、そんな「“似非”介護士」には退場をお願いしたいものです。
「“似非”介護士」のまま介護業界にしがみついていても、給料は上がりません。それ以上に不満も募るでしょうし、事故が起こるリスクはさらに高まります。結果として、本人にとっても介護業界にとってもプラスになりません。
それなら、さっさと辞めて欲しい。資格だけの「“似非”介護士」が介護業界を悪くしているのですから・・・。
「類は友を呼ぶ」「朱に交われば赤くなる」「悪貨は良貨を駆逐する」という諺があります。「“似非”介護士」ばかりで、「ホンモノの介護職」がいない介護業界にしてはいけないのです。
本人にとっても、他の業界を経験することで、一皮剥けて大きな人間になれるはずです。その時に、「やっぱり介護が向いている」と思えば、戻ってきてください。その時はホンモノの「“プロ”の介護職」になっていると思いますよ。
追記
ケアマネージャーという資格も紛らわしいですね。
いかにも介護全般の専門家と思わせるような名称ですが、保健・医療・ 福祉の国家資格を持っている人(歯科医師、薬剤師、助産師、あん摩マッサージ指圧師、栄養士なども含まれます)なら、介護の現場に一切関わっていなくても受験資格は得られますし、資格を取ってしまえば、業務に携わることができます。
ちなみにケアマネージャーの業務(ケアプランの作成および介護保険への手続き)は、有資格者以外は行えないというものではありません。被介護者の介護家族であれば、堂々と行うことができる程度の業務でしかないのです。
資格を有し、介護支援事業所に登録されたケアマネージャーでなければ、介護保険からの報酬が得られないというだけの話です。
つまり、そこに専門性など存在しません。(もちろん、表面的な話でしかありませんが)介護保険制度の知識と近隣の介護サービスについての情報を持っていれば、誰にでもできる程度の仕事でしかないのです。
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