前回も書きましたが、介護職でも、「“認知症”の(在宅)介護」を十分に理解していない人は多いですね。
しかし、それ以前に認知症そのものを理解していない介護職が多いことに驚かされます。
認知症そのものをしっかりと理解していない介護職では、「介護家族へのアドバイス」はもちろん、認知症患者への対応もキチンとできないのは当然です。
というわけで、ここでは介護する立場から見た認知症について書いていきます。
(認知症の医学的解説は、Wikipediaや認知症フォーラム.comなどをご覧ください)
医学的解説では、「記憶や判断力の低下、見当識障害、失認・失語などの中核症状に加え、幻覚や妄想、暴言や暴行、不潔行為などの周辺症状を見せる」と書いていますが、介護の世界では、抽象的な話よりも具体的な話の方が大切ですよね。ということで、もう少し突っ込んでみます。
まず、認知症の進行は、一方通行ではありません。
「最近、時々変なことを言 う」「ちょっとしたことで興奮するようになった」「思い込みが強くなった」程度の段階から始まり、一進一退、三歩進んで二歩下がるを繰り返しながら、徐々に進行してしていくので、毎日見ている家族ですら気づきにくい病気なのです。
また、認知症は常に同じではありません。
認知症が相当に進行した状態でも、「正常に見える言動」をすることも少なくありません。とくに、雑談やレクリエーションなど、楽しい時間を過ごしている時ほど、その傾向は強くなります。
それに、中核症状や周辺症状も、常にあるわけではありません。長年やってきた仕事や趣味、嗜好などの分野では、正常な頃と同じような知識や言動を見せることは少なくありません。
一方、認知症の症状といえる徘徊や物隠しなどでは、「認知症だとは思えない」ほどの知恵と工夫も見せてくれます。欲求を満たそうとする気持ちだけで動くので、(介護者が)想像もできない知恵や工夫を見ると、本当に認知症なの?と思うこともしばしばです。
さらに認知症をわかりにくくするのは、十人十色、百人百通りの症状があることです。もともとの性格や嗜好、経歴、趣味などにより、穏やかな人もいれば、粗暴な人、威張る人など千差万別です。また、認知症も初期段階の頃は、本人も「物覚えが悪くなった」「よく理解できないことが増えた」などの認識があり、それが葛藤を呼びますから、興奮しやすくなる傾向はあります。
また、“認知症”が進んでからも、全てのことが覚えられない、わからないという訳ではありません。
とくに、末期的な認知症でもない限り、意志や感情も持っていますし、雑談程度の会話なら普通にできます。
まして、前述したように、長年やってきた仕事や趣味、嗜好などの分野について語って貰うと、それこそ人生の先輩らしさも見せてくれます。
ここで注意して欲しいのは、同じような症状でも、認知症によるものかどうかを見極める必要があるという点です。
認知症でなくても、社会適応力に欠ける人は存在します。暴言や暴力もその一つですし、何事にも意欲を持たず、引きこもってしまう人もいます。
まして、もともとの性格や身体的な症状に対するストレス、さらに介護施設をホテルなどのサービス業と勘違いしている老人も(介護職に対して)暴言を吐くことはあるでしょう。
つまり、似たような問題行動であっても、認知症が原因なのか、別の理由なのかをしっかりと判断しなければ、適切な対応はできないのです。先入観で“介護”することは、本人や家族の不満や不安に繋がるということを 理解してください。
介護職という立場から考えると、「認知症であるかどうか」は大した問題ではないのです。重要なのは「本人や他の利用者の安全・安心・平穏を守ること」なのです。
問題となるような行動を起こさないタイプの認知症であれば、特別な扱いは不要です。
逆に、「どうせ(認知症だから)わからないだろう」といい加減な介護をしたり、「どうせ覚えていないから・・・」と目の前で悪口を言ったり、逆に無言で(身体)介護をするような慇懃無礼な態度はいけません。
言葉遣いなども注意しましょう。認知症になり、幼児のような言動を見せるようになったとしても、相手は幼児ではありません。間違っても幼児言葉で接してはいけません。
つまり、「認知症であるかどうか」に関わらず、様々な経験を持つ人生の大先輩として接していくことが認知症介護のポイントなのです。
ただし、認知症介護の中では“嘘”をつくことも必要です。とくに帰宅願望や入浴拒否などに対しては、“嘘”を用いての誘導も一つの対応となります。「“認知症”介護では、嘘も方便!」なども参考にしてください。
次に、介護職の方は、どんなに経験を積んでも「介護家族に敵わない部分がある」ことを理解してください。
効率的な介護技術や医学的知識、介護に関する総合的な情報などは不足しているとはいえ、目の前の被介護者だけに限れば、本人の過去の経歴から性格、趣味・嗜好など多くの情報を持っていますし、介護サービスを利用する前から認知症介護に関わってきた「介護の先輩」です。
介護が必要になって初めて接点を持つ介護職では、それ以前の正常な状態と比較することは不可能なのです。こればかりは家族や身内などに敵うはずがありません。
「(認知症)介護のプロ」と呼べる介護職なら、「介護家族の持つ情報を共有する」ことで、介護職は「個々の被介護者への接し方」を工夫することができますし、介護家族には介護技術や介護機器、介護サービスなどの上手な利用法などを伝えることができるはずです。
介護家族と介護職、どちらにとってもプラスになること間違いなしです。ぜひ、積極的にコミュニケーションを図ってみてください。
その時に注意して欲しいことの一つが「介護家族への心のケア」です。被介護者の世話だけをしていればいいのではありません。
誰しも、自分の肉親を介護サービスに任せきりにしたいと考えている人はいません。できる限り、在宅で、家族の手で介護したいと考えるのは当然の話です。介護保険を使ったところで、無料ではありませんし、費用面の負担も無視することはできないわけですが、それでもなお、介護サービスを利用しようとするのは、家族による在宅介護に限界を感じているからです。
喜んで介護サービスに委ねる家族はいないのです。介護家族は、弓折れ、矢も尽きて、憔悴の中で敗北感や罪悪感を持ちながらも介護サービスに送り出すのです。
だからこそ、介護家族に対して優しい言葉を投げかけてあげてください。「ここまでよくやってくださいました。ご本人も感謝していますよ。ここから先はプロがお手伝いします。まずは一休みしてください。それから、我々と二人三脚でやっていきましょう」と・・・。
6月11日 追記
「介護家族への心のケア」で、もう一つ忘れてならないのが、後述する「“避”介護親族」絡みのアドバイスです。介護職が直接つきあうことのない相手なので忘れがちですが、介護の邪魔になりかねないので、キッチリとフォローしておくことが大切ですね。
2010年2月3日 追記
「「頑張 らない介護」とは・・・」の中で、「介護者は名役者になろう」という話も書いています。
これは、介護職にも当てはまることです。前述の“嘘”を用いての誘導という面での考え方として参考にしてください。
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